「イタッ!あれっ、又、注射の針を刺す所がずれたな~、気を取り直してもう一度チャレンジ。よしよし3回目でなんとか予 定の位置に注射ができた、でも何度も間違ったところに刺し ちゃったな。 こんな事はいつもないんだけれど、やっぱり難しいね!自分で 自分の歯肉に注射するのは……………」
そうです、左手に鏡、右手に注射器をもって自分で自分の歯 を抜こうとしているのです。実はこれ私、菊地の実体験です。鏡 で自分の口の中を覗くのは左を向いても、右を向いても常に 正面からしか見えないというあたりまえのことに、その時気が つきました。
正面からだけだと遠近感がわかりにくいのです。そ の後、無事に抜歯を終えたのですが、これもまた少し、歯だけ でなく、歯肉までペンチでつまんでしまったりするので、やはり 自分で自分の口を処置するのは出来ないとわかりました。せい ぜい抜歯程度でしょうか?
さて、前回の続きです。歯科医が歯科治療を受けるのは、実 は歯ぎしりや噛み締めで歯にヒビが入って、そこから細菌が侵入し、内部からむし歯になったという事をお書きしました。でも、 もっと悲惨な結果が、先ほどの抜歯になった話に続くのです。 これも最初に処置をしてから20年後の成れの果てですが、そ の経緯をお話いたします。
では、なぜ歯医者さんなのに、歯を抜かなければならないまで 放置しておいたのでしょうか?
実は、自分で抜歯したのはかなり慌てた行動でした。
昨年CTを導入するにあたって、実際に自分の口を撮影 して見たのですが、その時、右下の一番奥の歯を支えて いる骨が非常に大きく骨髄近くまでとけていることを見 つけてしまったためです。もちろん、自分の歯がどういう 状態かは頭では理解していました。
抜歯した時から遡る こと1年、噛むと痛みが出始めたのです。「これは、歯が 割れてしまったな」と、最初は噛むと痛みがあったので すが、そのうち落ち着いたことをい い事に、自分の事は後回しにしてい ました。
しかしそもそも、なぜ歯が割 れてしまったのでしょうか?
この歯 は神経がなく、割れやすい状態だっ たのです。神経を取ってしまった歯 は、血管も取ってしまっているので 枯れ木に例えられます。
つまり、弾力 が無く、力が繰り返し加わると疲労 骨折のようにポキンと折れてしまう ことが非常に多いのです。
当院での 『歯を抜かなければならない理由の ナンバー1』は、むし歯でも歯周病でもなく、この破折で あることからもわかります。さらに付け加えるならば、枯 れ木のような状態な上に、この歯は3度も治療をやり直 しています。
これには過去の経過がございます。
事の発端は、20年前、初めて勤務した歯科医院での出 来事です。自分のレントゲンを取った時に、親知らずの一本手前の歯にむし歯の影が写っていました。これは学生 時代に親知らずを抜歯した時にすでにわかっていました が、一番奥の歯の奥側で処置が難しい上に、おそらく神 経を取らないといけない状態だと予想していましたの で、フッ素を定期的に塗布して経過を見ていました。その 後進行は止まり、痛みがないので、神経の処置はリスク も高いため出来るだけ、ぎりぎりになってから始めよう
と考えていたのです。ところが運が悪いことに、そのレン トゲン写真を先輩の歯科医師に見られたのです。「あー、 ここのむし歯、深いね~治療しようか?」とのお申し 出…………心の中では「えー、治療したくないなー」と考 えていました。なぜならば、不遜ながらその先輩の普段 の診療を見ていたからです。結果として、根の消毒はレン トゲンで見ても不十分なものでした。結果は、その5年後 にでます。突然噛んで痛みが出始めたのです。
仕方なく、今度は同級生の歯科医へ駆け込みました。その時もその先生の力量はわかっていますの で、結果は望んでいません。痛みだ け取れればという思いでかかった のです。果たしてその結果、かぶせ 物の噛み合わせは高く、淵が舌に 引っかかると散々でしたが、お昼休 みに診察してもらったので文句は 言えません。さらにそのまた5年後 に痛みが再発しました。
今度は3度 目ですので、流石に後回しにはでき ません。そこで、遠方ですが根の消毒の師匠で ある、大阪の岡崎歯科に治療に通う決心をしました。結果は良好だったのですが3度の治療 による負担と長年の歯ぎしり、噛み締めの結果、最後は歯 が真っ二つとなり、神経をとってから20年後に前述の抜 歯に至ったという結末なのです。
ここで、やはり最初の診断と処置は熟慮しなければな らなかったと考えます。少しでも歯を削ることは、長期に観察すると歯の構造としての強度を大きく損なうことに なるのです。20年前はそこまで考えが及ばなかったので すが、今では同じような症例を多数経験していますので、 歯が割れにくくなるような対策もできうる限りしていま す。
また、今当院にいらっしゃるような歯のトラブルを抱え ている方は、すべて噛む力が強い方ばかりです。ご本人 は意識せずに歯を割ったり、欠けさせたりしています。そ のため一本の治療だけでなく、お口全体の噛み合わせなど全体の力学的な配慮をしながら定期的な噛み合わせのチェックも必須です。さらに個々の歯の治療においても、最小の切 削と最強の接着システム、最新の衝撃吸収素材で極 力、元の「一塊の歯」に近づけることが大事です。
現在のお口の状態は過去の結果です、将来は今の行動で変化します。多くの方が歯を失ってから後悔して います。生きている以上お口から食事を摂ることは何 よりの楽しみでもあり、尊厳であると思います。少しで もサポートをさせていただけましたら幸いです。
コメントを残す