人生を変える大事な根管(こんかん)治療の重要性(1)

歯が痛い様子のイラスト

誰もが味わいたくない突然の歯の痛みの原因は?

 歯の治療と聞くと誰もが痛みを想像しますよね。歯医者さんが嫌われる理由のナンバーワンです。しかし、そもそも石のように硬い歯は、硬い食べものを噛んでも痛みを感じないのに、なぜ虫歯になると痛みを感じるのでしょうか?

歯は三層構造

 今回からそんな歯の痛みに関係する「歯の神経とその治療」を説明いたします。ここで質問です。歯は削って痛みを感じる部分と、削っても痛くない部分があることをご存知ですか?歯には言い換えれば生きている組織で神経の通っている部分と、“大理石”のように神経の通っていない部分があるのです。そこで、歯の構造を説明します。歯の表面全体は白いエナメル質という大理石のように硬いものが、外側から見える歯の全体を覆っています。この表面のエナメル質は神経が通っていない為、噛んですり減っても、さらにドリルで削っても痛くない部分です。その内側は、少し黄色みを帯びた象牙質といってエナメル質よりは柔らかく有機質に富み、神経の末端が通っている部分があります。そのためこの象牙質は削ると痛いのはもちろん、知覚過敏などでしみたりする部分でもあります。もちろん虫歯により細菌が侵入しても痛みを感じるようになります。さらに象牙質内部は一般的に「歯の神経」と呼ばれている、歯髄組織があります。この部分は柔らかい細胞でできていて、神経や血管が張り巡らされています。

守りに強い城の落とし穴

 虫歯や歯を折ったりして歯髄が露出すると細菌感染を起こし、たちまち歯髄の入っている管を伝って体の中に細菌が侵入します。そのときに激痛が走るのです。体のほかの部分でしたら、細菌に対抗するための白血球を送り込む血管が十分に太いのですが、歯の中の血管は根の先の細い管でつながっているだけなので、細菌からの攻撃に弱いのです。これは守りに強い城がひとたび侵入をゆるすとあっけなく落城するようなものです。

(実は細くても、結構けなげに細菌の侵入に対抗して、漆喰をぬるように象牙質を作って刺激を受けないようにがんばっているのです。また歯の根が完成していない子供は、血流が十分にあるので虫歯が進行しても神経が生き延びていることなどよくあります。永久歯が完成すると、血流が下がるとともに再生力が弱くなります。)

神経はどこへ行く

 さて、この神経は一体どこへとつながっているのでしょうか?実はこの神経、脳から“直接”出ている12本の末梢神経の中の1本なのです。「三叉神経痛」という言葉で聞いたこともあるかもしれませんね。手を挟んだり足をぶつけたりするより、歯の痛みを猛烈に感じるのは、むし歯の痛みは電気刺激となり“直接”脳に伝わるからなのです。

洞窟に隠れるテロリスト

 この後、さらに細菌に攻め込まれた神経は断末魔の痛みを出したあと、嘘のように痛みがなくなります。この時には神経の入っていた管は細菌の根城になり、体中をパトロールして治安を守る白血球のような免疫細胞が、入り込めない洞窟となります。神経が死んでしまった状態では歯の中に、もはや血流がないためです。それをいいことに潜んでいる細菌というテロリストは、人間の体調が悪いときに暴れ出し、白血球と戦争を行います。歯肉が腫れ激しい痛みを引き起こし、さらに進むと骨髄まで進行し骨髄炎となります。こうなったら入院の可能性も出てきます。その後、お互いに戦った死骸が膿として、歯肉からニキビのように排出されるのです。ひどい場合は、顔の皮膚を突き破って膿が出ることもあります。昨年当院の若い女性の患者様で一人、顔の皮膚までただれて形成外科で何度も手術をしている方もいらっしゃいます。また、時に細菌は血管を流れて全身に拡散されます。そして、脳や心臓のような大事な臓器にたどり着き、そこで繁殖します。今、痛みがないからといって、放置できない重大なことに発展する可能性が常にあるのです。

自分では解決できないテロ対策 細菌というテロリストが歯の根の管に隠れていて、人体を攻撃する『治外法権』の状態は、人間の体を守るシステムでは対応できません。さてこの状態を改善するにはどうしたらよいのでしょうか?こうなると細菌がさらに体の中に拡散しないように、生体は最初にバリアを作ります。また、菌を排出するために体の外へ管を作り、膿として出します。さらに進行すると体は歯を支えている骨を自ら溶かし、歯をグラグラの状態にして、最後には細菌の住処である歯ごと、トカゲのシッポ切りさながら抜けるようにするのです。こうなっては取り返しがつきませんので、ここで歯医者さんの登場です。いわゆる「神経の治療」や「歯の根の消毒」と呼ばれる治療が必要となります。これがまた厄介な処置で、歯医者さんも患者さんも苦労するのです。

自然治癒が働かない場所は、歯医者さん任せ

 根の中の細菌は、外側から歯磨きをしたり、お口をゆすいだり、お薬を飲んだりしても一切効果がありません。なぜならば,

歯の中に隠れている細菌は、血液の流れがなく免疫の及ばないところに住処をつくっているためです。そのため、歯医者さんが直接手作業で消毒しないと、放置しておいてもよくなることはありません。最悪、抜歯に至る事もあります。そんな状況の歯を抜かずに守る究極のワザ、それが「歯の根管治療」です。歯科治療の中で、歯科医を悩ませる一番大変で重要な治療なのです。

イニシャルトリートメント

 最初に神経の中を消毒する時と、再治療する時では難易度が大きく異なりますので、まずは手つかずの状態から初めて根管治療を行うときについての手順を説明いたします。

1.滅菌した機材を使う

 「えっ、これが最初?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。「歯医者さんって滅菌してないの?」と・・・・。残念ながら、日本のほぼすべての歯科医院ではその環境は望めません。注射の針を使い回していたら、大きな社会問題になりますよね。実際、根管治療の針は感染した歯に用いますし、根の先を通り越して体の内部を突き刺すこともあります。しかし、日本の保険医療制度では、根管治療の評価が非常に低いので、一度使った針を何度も消毒や滅菌して使うことは当たり前で、疑問にすら思われない状態なのです。一度使った針を洗浄滅菌後に顕微鏡でのぞくと、超音波で洗浄した上に滅菌しても、針の先には前回使ったときの歯の削りかすや根に詰めてあった樹脂の『カス』が、しっかりと残っています。当院でもやっと4月から使い捨てに切り替えることができました。下世話な話になってしまうのですが、ステンレスの針1本が300円程度、これを一回の治療に10本程度は使います。それに対し保険での根管治療は前歯で2,280円、二回目以降はなんと260円。これで人件費などすべてをまかなわなければなりません。その結果はご想像の通りです。さらにチタンの針などを使うと1本3,000円程度はします。これが日本の現状です。滅菌したとしても熱を何度も加えると、針は折れやすく歯の中で折れて残っていることも、日常的によくあることなのです。皆様を脅かすことが目的ではないのですが、感染のリスクはゼロではないと考えます。

2.どのように治療を進めるか調べて考える

 当たり前ですが、最初に診断ありきです。”果たして神経を取って根管治療をしなければならないのか”という判断から入ります。症状の経過や今の状態、電気を使った診断機器、レントゲンなどから総合的に診断します。また実際に処置をするとなると、課題となる部分も事前に考えます。具体的には根の本数、長さ、太さ、曲がり具合などを把握し戦術を立てます。この段階が、成否のほぼすべてを決するといっても過言ではありません。今年から歯科用のCTを当院に導入しましたが、一番活用されるのが、実は根管治療の術前診断です。立体の様子を影絵のような平面で読み解くことは、解剖学的な知識と経験が物言う世界ですが、それでもCTからの情報は桁外れに豊かなものです。被爆というデメリットを、皆様へ最大限に還元させていただく気持ちでいます。

3.感染した虫歯の部分を取り除く

 歯の消毒をしたいのに、細菌を残していては本末転倒です。これも実は徹底して行われていないと思います。肉眼では虫歯で侵された部分を完全に取り除くことは、ほぼ不可能といっても間違いないです。しっかりと顕微鏡をのぞいて処置を行わないと、意図せずに感染源を残すことになりかねません。そこには「感染した部分をしっかり取り除く」という意思が必要です。

4.治療する歯を隔離する

 ご存じの通りお口の中は雑菌だらけです。唾液の中にも多くの細菌がいます。根を消毒しながら、一方で唾液が混入すると言う事態は、避けなければなりません。ここで大事なステップを加えます。それはゴム製のマスクを使って「歯を隔離する」ということです。この操作を「ラバーダムをする」といいます。ゴムでダムを作るという表現です。インターネットで根管治療について調べると、必ずと言って良いほど、この「ラバーダム」というキーワードが出てきます。これをする歯医者さんは、よい歯医者さんだという都市伝説です。賢い皆さんはもうおわかりだと思いますが、これは必要条件ではありますが、十分条件ではありません。ところが、根管治療を必要とするような歯は、すでに歯の形が大きく崩れている状態が多いです。従って、そもそも「ラバーダム」ができないこともあります。そこで、その前に歯が欠けている部分を樹脂などで壁を作るように補い繕ってから、初めてラバーダムというステップに進みます。

このように環境を整えるステップを一つずつきちんと行わないと、よい結果に結びつかないと信じています。

5.根を消毒しやすいように穴を開ける

 根管治療に用いる基本的道具は、『木ねじ』をとても細くしたような針です。その針を用いて手探りの感覚で根の管をつついて消毒します。そのために歯のかみ合わせの部分に針が通るように穴を開けます。削りすぎると歯が弱く割れやすくなりますし、穴が小さすぎると針を扱う操作が極端に難しくなります。さらに段差なくスムーズに整えないと針が途中でつかえてしまいます。これも解剖学的な知識が前提の上、レントゲンをよく読む必要があります。たった穴をあけるだけでもその後の戦術に大きく影響するのです。なんとも小さい人間になりそうな細かい話ですが・・・。

6.根の管の入口を発見する。

 実は、穴を開けても根の入っていた管の「入りロ」(図1)すら見つからないことがよくあります。ここでも顕微鏡が力を発輝します。解剖学的な原則を元に、歯の色の微妙な違いを見分けながら細い針でさぐっていきます。顕微鏡を使っていない時代は、本当に冷や汗をかきながら処置を進めていました。根の管の入りロを発見しないと、そもそも消毒のための針を通すなどできないためです。ここで発見できずに敗退することもありました。若いときは本当に大げさではなく「命を削る思い」で根管治療をしていましたし、苦戦している根管

治療の予約が入っている日は、憂鬱で逃げ出したい気持ちでいっばいでした。また逆にがんばりすぎて、誤って人工的に歯の底に穴を開けてしまう失敗もよくありました。  

無理をしすぎないことも大事なのです。(図2)当院では、歯科用CT撮影をすることによって『どの根に膿がたまっているのか』、『先の方まで管が詰まっているのか?』、『トンネルの入りロだけ土砂崩れのように詰まっていて、その先は再び管が現れるのか?』など診断がつくようになりました。(図3)そうすれば、無理をしないか、もしくは積極的にチャレンジするかの判断が、かなりつくようになりました。また、通常より根の管が多い場合(図4)もあります。一つだけ見逃したことによって後で問題になることもあります。

CTと顕微鏡がないとそれに気がつかないことが非常に多いと思います。肉眼だけでは全く太刀打ちできません。

7.針がどこまで通るか確認する

さて、その次に斥候(せっこう) を送ります。先端の直径が 

0.06mmという ―番細い針(図5)を恐るおそる根に入れて出します。そうすることによって根の曲がり具合や細さがわかります。言葉では表現できない微妙な操作が必要です。根が途中で曲がっていたり、(図6)二股になっているような場合など、スムーズに針が入っていかない時には、事前に針の先端1mmを30度ほど顕微鏡を見ながらカーブさせ、数度ずつ角度を変えながら針を出し入れします。少し感触が違うところをさがして先へ先へと進めます。

8.管を広げる

このステップが腕の見せ所、根管治療の核心の部分です。少しずつ探りながら根の先まで到達すれば、後はしめたものです。また、針は根の先でピッタリと止めないといけませんので、それはレントゲンとテスターのような測定器(図7)を併用して、針がどこまで進んでいるのか判断します。そうです、根の治療の時、ピーピー耳元で音がしていますよね。このステップは現在、技術より「機材」(図8)に頼ります。従来の「ステソレスの針」ではな<「チタンの針を取り替えながら、コンピュータ制御のモーターで回転やトルクを調整しながら、必要な太さや形の管に削り広げます。(図9)ステンレスの針では曲がった針がまっすぐに戻ろうとしますので、回転して削ると本来の根のカーブが壊されて、まっすぐに削られてしまします。それが、チタンの針だと 柔らかいので、カーブのついたまま管を太く削ることができるのです。根の形に合わせ針の選択や、使う順番を考えるのが腕のみせどころです。なんだか腕自慢の旋盤工の気分になるシーンです。このチタンの針は、アメリ力が圧倒的に進んでいますが、日本では商売にならないので最新の機材は全く手に入れられません。したがって、実は個人輸入して仕入れています。この理由は、日本の保険診療では根の消毒が1回の処置で260円から400円ですので、ほとんどの歯医者さんが最初から治療を放棄しているのが実態です。当然、コストのかかる

機材はどうしても導入しづらいのが現実です。ー方メー力ーにとっても、日本の厳しい薬事法を通して市販するには莫大な費用がかかりますので、販売利益が得られないとなると輸入をためらっているのです。中には、アメリ力で売れ残った時代遅れの商品が販売されることもあります。

9.根に樹脂を緊密に詰める 

最後のステップです。ここをしくじったら、今までの過程がすべて無駄になります。よく「根の管にお薬を詰めさせていただきます」とお話ししますが、薬効成分があるわけではありません。単純に説明すると『ゴム栓をする』イメージでいてください。細菌が繁殖しないように、物理的に樹脂と接着剤で封鎖するのです。樹脂を150度ほどの高温に熱し少しずつ『とかしては圧接しを繰り返し』ピッタリと栓をしていきます。(図10)これを極小の鏡(図11)  

10.土台を作製する

先日も根にお薬を詰めた段階で来院が途絶えた方がいらっしゃいました。久しぶりにレントゲンを撮ると残念

ながら根の先に膿がたまっている状態でした。消毒し、お薬を詰めた後に安心せず、その後に再感染を防ぐためにしっかりと上から栓をすることが必要なのです。(図1)

 その「栓」に相当するのが被せものをするための「土台」です。土台がしっかりと歯と接着し細菌の侵入を防がなければいけません。以前はこの土台を「金属」で作り「セメント」という材料で固めて固定していました。実は金属の土台は一見、丈夫に思えますが、硬いために「くさび」のように直接噛んだ衝撃が伝わることにより亀裂が入ったり(伊豆の方言では「えみがいる」っていうのでしょうか)、時には歯を割ってしまう原因にもなります。ちなみに、当院での抜歯の理由のほとんどが歯周病や虫歯といった病気のためでなく、歯が割れることによるものです。しかし現在、当院ではすべて樹脂性の土台に置き換わっています。これはビルの免震構造のように力が加わったときに適度に「たわむ」ことが大事なのです。同じ理由で根の管に入り込む部分は、グラスファイバーという釣り竿と同じような素材を使っています。従来の「木ねじ」のような「ねじ込んで支える芯」(図2)は、(木ねじが木に亀裂を作ることがあるように)歯の根に負担をかけます。またこの樹脂を使う理由は他にもあります。皆さんアイスを食べながらコーヒーを飲んだりしませんか?熱いものと冷たいものを交互に食べると、歯も膨張と収縮を繰り返します。そのときに歯と金属の膨張率が異なりますので、金属によって広げられて歯にストレスが加わり、亀裂(図3、4)が入る原因となります。従って当院での樹脂は強度もさることながら、膨張率も歯と同じものを選んでいます。さらには金属と違い、錆びませんし、アレルギーも引き起こしません。一方、樹脂の土台に問題点がないわけではありません。金属の土台は型だけ取れば、後は技工士さん任せなので時間がかからないのに対し、樹脂の土台は、患者さんに直接施術し削って形を整えますので、皆さんの治療の時間が長くかかってしまいます。技術的にも狭くて暗いお口の中で操作しますので、唾液などで汚染されると接着力が極端に下がってしまいます。このような課題は歯科医師側の技術で回避できますので、私たちは様々な工夫をしています。

 さらなる問題は土台を固定している「セメント」にもあります。

「セメント」で固定しているだけでは接着してはいません。そのため年月が経つとお風呂のタイルの目地のように劣化し、隙間ができます。そこから細菌が侵入したり、空気や唾液が浸入することにより金属が腐食(図5)していきます。当院では、歯と樹脂を一体構造とするために「セメント」ではなく新しい「接着剤」の技術を利用しています。接着の技術について語るとまた話が長くなりますので割愛しますが、接着の技術の進化で以前は抜歯せざるを得なかった歯が守れるようになりました。

 その後、歯型をとって被せます。かみ合わせの調整が不良で過剰な負担がかかると歯が割れたり、骨がとけグラグラとしますので気を抜けません。以上、これが神経まで感染した後、初めて治療するときの一連の手順です。

リトリートメント(歯の神経の再治療)

 ところが、実際には当院で初めて神経の治療するケースは1割ほどです。残りの9割は過去に他院で神経を取り被せてある歯の再治療となります。その場合の問題はさらに複雑です。

ここからは再治療の場合の手順の説明です。

最初の難関は今まで被せてあった歯を壊して除去することです。患者さんにとって金属を削る振動や音も大変なものですが、歯医者さんにとっても特に土台を外すことが厄介です。これだけでも1時間ぐらい時間を取られることも少なくはありません。乱暴に力任せに取ろうとすると、歯が割れて治療する予定がその場で抜歯になることもあります。またこの時、気をつけなければ歯を削りすぎてしまいます。なぜならば、「金属」と「歯」では歯の方が柔らかく、ドリルの刃は気を抜くと歯の方へどんどん削れて流れていきます。さらに穴の深い部分は、死角になって見えないところを勘で削ります。時々手を止めて確認しないと取り返しのつかない大穴をあけて、これまた抜歯せざるを得ない場合もあります。この様な事は、手術用顕微鏡を見ながら処置することでリスクを下げることができます。もっと言いますと、顕微鏡を使わずにこの処置をする事は、私は怖くてできません。(保険診療の負の面はここにも現れます。この時間がかかり、神経を使う処置は1時間処置して150円しか支払われません。内訳はおおよそ患者さまから50円、保険から100円の収入となります。一方で金属を削るドリルの刃は1本で約200円、これを2,3本使うとこれだけで大赤字になります。そのため、硬い金属を削るのではなく、削りやすい歯の方を削って土台の金属を取り除いたりします。時には、以前の土台を取らずに治療したふりをしてあることが見られることもあります。医師の良心だけに頼るのは現在の保険制度では無理があると思うのです。)

このような理由のため、従来は危険を冒すことを避け、手を出せずに成り行きを見守ることしかできないことも多々ありました。話を先に進めましょう。土台を無事に取り除いたとしてもまだまだ課題は多数あります。中途半端に根の管を処置していると途中までつめたゴム(図6)が「感染源」になっていることもあります。これをとるのも非常に手間がかかります。この古いゴムが管の奥にこびりついて残っている部分は、肉眼では確認すらできません。乱暴に取ろうとすると根の先からあごの骨へ汚染物質を押し出してしまうことになります。そのため手作業で少しずつカスを根の先に押し出さないように、極小の耳かきのような器具で顕微鏡を覗きながら取り除くという地道な処置になります。また過去の治療の際、管の途中に段差を作ってしまっていると、再治療の時に針が段差に引っかかり、細菌が住んでいる、の先に消毒の針が進まないことが非常に多いのです。この場合は、針の先端を30度程度に事前の曲げておいて、いろいろな方向へ少しずつ向きを変えながら出し入れし、微妙な感触を感じながら本来の管を探していきます。このように真っ暗な迷路を手探りで抜けるような処置なのです。幸い、今は歯科用のCTが使えますので、かなりの場合、事前に診断がつくようになりました。CTを使う事で、今まで想像しかできなかったことが、今では圧倒的な情報が得られます。何度も再治療を繰り返したと思われる歯には、折れた針(図7)が残っていることもしばしば見受けられます。さらに人工的に歯に穴を開けてしまって、そこから感染をひどくしてしまっていることも珍しくありません。このため再治療の場合の成功率はぐっと下がります。幸い、間違って穴があいている場合でも、今は良い薬がありますのでふさいだり、折れた針を取ることが必要な場合もほとんどの症例で取り除くことができます。

さらには、根の消毒で改善しないと考えた場合、外科処置に切り替えるという方法もあります。

例えば、

  ● 根の先を切断して切り落とす

  ● 歯を一度抜歯して、消毒後再び植え治す

  ● 歯を分割して何本かある根の感染がひどい一本を取り除く

などの処置を選択することもあります。

私たちでできることはすべてチャレンジしますので是非あきらめないでご相談ください。

 ただし、どんなに人の淺知恵で考えても、天然の歯には絶対にかないません。何度も思ったような結果が得られないため、治療より予防の方が大事だと気がついたのです。処置後は「良くなった、治った」のでは決してありません。元に治せなかったので人工物で補ったという事です。この事は忘れないでくださいね。