セミの鳴き声がますます元気になって来ました。

我が家も学校は今週まででいよいよ夏休みです。

夏休は普段なかなか通う時間がない「歯医者さん」に

例の「赤紙」をもって行く時期でもあります。

そこで今回は長文になりますが学校健診とそれを含む歯科環境に

歯軋りをしてみましょう。

学校健診にまつわるエピソードを最初に取り上げます。

ある小学生の女の子がいました、当歯科に定期的にケアに通われていましたが、奥歯の溝に黒く着色はあるものの注意深く経過観察しながら問題なく経過していました。
ところが学校健診で「むし歯」と診断されたため、お母様がセカンドオピニオンとして他院を受診されました。そこで当院の診断として「削るという介入は必要ない」としていた歯はすべて銀歯に削って詰めるという処置を施されました。
母親はあまりにも両極端な診断にセカンドオピニオンとして当院を再受診されました。そこで私が目の当たりにしたのは先月まで一本も手つかずに健康な歯として残されていたお口が無残にもすべての奥歯が銀歯に変わっていた状態でした。
母親から詳しくお話を聞くと、菊地歯科では削る必要が無いと言われていたのに学校健診ではむし歯と診断されて、不信を抱いたこと、他院では削る必要性があるという診断と説明をされたことを話されました。
その後、信頼を失った私どものには来院されることはありませんが、いまでもそのお子様が現在どうなっているかが気に掛かります。

今回の内容は、上記の例に代表される毎年毎年繰り返される学校歯科健診の問題点を一度まとめたいという思いから作りました。時には歯科健診は行われない方がよいのではと考えさせられることもしばしばあります。

問題点というのは大きく二つに分類されると私は考えます。
一つは学校健診にある問題点、もう一つは歯科医療そのものにある問題点です。

最初に学校健診の問題点を上げます。
そもそも、医療機関では個々の患者さんの診断をする場ですが、学校という教育の場で行われる健康診断は、詳細な臨床検査などを

もととして確定診断を行うのでなく、「健康」、「要観察」、「要治療・要精密検査」に”ふるい分け”することをそもそも目的としています。

従って歯科医院でのチェックとは根本が違います。たとえば診査一つとっても精度の問題があります。歯科の大事な検査として目で見ることがあります。ところが学校健診の環境では歯科医院と違い強いライトがありませんし、歯に空気をかけ乾燥させることもできません。その上、数十秒の短い中で判断しなければいけません

歯科用顕微鏡

歯科用顕微鏡、よく観察することは歯科の基本です

。1日300人の学生のお口の中を見ると、8,400本の歯を調べることになります。疲労してくると間違ったりするなど、ミスも無いとは言えません。目的が違うとはいえ、レントゲンレーザー測定器顕微鏡などをじっくり使いたいと思うシーンもあります。

また、健診の現場で知り

たいことに学生さんそれぞ

むし歯進行レーザー測定器

ドイツ製、レーザーによるむし歯の進行測定器

れの生活環境があります。実は、今の日本は市販の歯磨き粉のほとんどにフッ素が配合されているため「むし歯」がずいぶんと減ってきました。そのためほとんどの子供はむし歯が一本も無いのに対し、一部のお子さんが全員分のむし歯を持っているという感じなのです。むし歯の多い子供の多くに家庭環境など生活の背景も絡んでいるため、個々に応じたアドバイスが必要なのですが現状では対応ができていませんし

、又それが目的でもありません。また、記録の方法として従来の”Cのいくつ”という表現では穴の深さを主として評価しているため、穴ができる前の段階を評価しているわけではありません。また、一時点の評価なので、はたしてこのむし歯が進行している最中なのか、進行が停止しているのかも判断が難しいことも問題です。


学校歯科健診のメリット

  1. 自治体が負担するため、受診者の費用負担が無い
  2. 検査時間が短い(デメリットか?)
  3. 目視できる範囲のむし歯の穴。歯石、欠損の判断

学校歯科健診のデメリット

  1. 歯と歯の間など視認できない部分は確認できない
  2. 歯周病の判断は難しい
  3. 光源が暗い、お口の奥までの診査が難しい
  4. プラークや歯石が有ると、むし歯の確認が難しい
  5. 歯科疾患の原因の究明が難しい
  6. 個別の教育の時間が取れない

歯科医院での検診のメリット

  1. 視覚検査では確認できない⻭周病やむし⻭が判断できるそのため、痛くなる前の⻭科疾患が発⾒できる
  2. 診察や聞き取りにより、むし⻭や⻭周病の原因がわかり、治療や予防の⽅向性を決めやすい
  3. より精密なむし⻭の状況把握により、今すぐ削るのか、経過を⾒守るのか選択を相談できる
  4. 定期的に通うことによって、お⼝の状況の変化が⻭科医院で把握できるため、状況に応じた保健指導が受けられる
  1. 診察代・検診代という費用が発生する
  2. 歯科医院にいくという時間を作る必要がある

さらに仕組みとして、かかりつけの歯科医院で事前にチェックしているのに、治療勧告書を渡されると再度来院しなければならないことも煩雑です。菊地歯科に来院されているお子さんにはこちらから事前に診断の紙を渡しておいて問題があるならばかかりつけ医に連絡してもらうようなシステムがあればトラブルが少ないと思われます。
これは私たちのメディア力の問題でもあるのですが、一歯科医院の判断よりも学校という権威の方を信頼されるためのトラブルがあります。これをわたしは「みのもんた問題」といっていますが(笑)・・・・・そのため母親からは「学校でむし歯と言われたので削ってほしい」という訴えがよくあります。これは「削れば治る」という誤解があるためです。これに関しては歯科医療の問題でもありますので後ほど説明いたします。

さて、問題は歯科医療そのものにも内在しています。
一つは歯科医師の教育の問題、海外では「むし歯」そのものを研究する科があることに対し、日本では”むし歯の穴をどのように詰めるか?”とか、”入れ歯の設計をどうするか?”などどうしても「事後処置」に重きが置かれていました。従って一度むし歯になった歯は元に戻らないから早めに削って詰めるという発想から抜け出せない歯科医師も多数います。その結果、診断基準や治療方針に非常にバラツキがあります。

さらには医療制度の問題点が追い打ちをかけます。それは経営的側面です。簡単に言えば歯を削らないと売上にならないと言うことです。残念ながら、むし歯が進行しないような処置やケアは評価されず、一月に何本歯を削ったが売上に直結するからです。同じように歯周病や歯肉炎のケアや治療もほとんど日本の保険制度では評価されないので、歯ぐきが腫れていても見逃されてします傾向にあります。

その結果、歯は必要以上に治療され、歯肉炎は治療されない傾向にあります。 実際に学校健診でも「歯肉が腫れているから、歯医者さんに行って相談してごらん」というと「先週まで歯医者さんに通っていて、むし歯が治ったからおしまいって言われたよ」という返事をもらうことも少なくありません。
また、予防やケアの現場に必要な歯科衛生士は慢性的に不足しています。一人も歯科衛生士が勤務していない歯科医院も多くあります。私は歯科衛生士は、お医者さんにたとえると内科医に相当すると考えているのですが残念な現実です。さらにみなさんの歯磨きだけでは取れない歯の表面にこびりついた細菌の膜(バイオフィルム)を繰り返し除去するのも歯科衛生士の大事な業務です。そのような慢性的なマンパワー不足の中、歯科疾患の啓発不足が続いています。このような環境のなか治療勧告書を発行するだけではよい結果が出ないことを危惧しています。

最後にこれも何度も繰り返しお話していると思いますが

 「むし歯は目では見えない」
 「むし歯の穴はむし歯ではない」
 「むし歯は穴が開いてからでは治せない」ということです。

むし歯の本質はミネラルのバランスが崩れることです。これは内科的な病気で穴は長い間にわたりそのバランスが崩れ続けた結果です。従って穴が開く前でしたら歯にミネラルを戻すことができますが、穴が開いてしまったら歯医者さんはプラスチックや金属のような人工物で補うことしかできないのです。学校からの歯科健診の勧告書には、冷静な対応をお願い申し上げます。